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京都地方裁判所峰山支部 昭和31年(ワ)4号 判決 1956年10月29日

原告 毛呂多喜子

被告 毛呂登よ 外一名

主文

昭和三十年八月九日京都家庭裁判所峯山支部において本件当事者間に成立したる同庁昭和三〇年(家)イ第三号不動産引渡請求事件の調停中第二項及び第三項が無効なることを確認する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は亡毛呂孝志郎とその妻田家定子との間に出生した長女であり、被告登よは右孝志郎の実母、被告乃ぶは孝志郎の実姉である。

被告両名は原告の実母であり親権者である右定子が亡夫死亡後朝鮮生れの林正男と内縁関係を結んだことを不快に思い仝女を毛呂の戸籍より追出そうと企て仝女の復氏届を偽造してこれを昭和二十三年六月七日戸籍吏に提出した結果その氏名を田家定子と変更されたものである。

二、原告は昭和三十年五・六月頃被告両名を相手方として京都地方裁判所峯山支部に不動産引渡請求訴訟を提起したが右事件は職権で京都家庭裁判所峯山支部の家事調停に付せられその結果仝庁昭和三〇年(家)イ第三号不動産引渡事件として調停中仝年八月九日当事者間に別紙<省略>記載のとおりの調停が成立した。

然し右調停条項中第二項及び第三項は原告及び訴外毛呂孝子両名の親権者である田家定子の承認しないことであり、仮りに承認したものとしても、それは調停により親権者としての子の財産管理権を剥奪することになるが、財産管理権の喪失宣告又は辞任は家事審判の手続によるべきものであり、調停によつてこれが家事審判と同一の効果は招来することは許されないものである。

と述べた。<立証省略>

被告野崎乃ぶは原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の身分関係及び原告主張の如き家事調停の成立したことは認めるが右調停が無効なることは争う。

と述べた。<立証省略>

被告毛呂登よは適式の呼出を受けながら本件口頭弁論に出頭せず又答弁書その他の準備書面を提出しない。

当裁判所は職権で被告野崎乃ぶを尋問した。

理由

原告主張の原告と被告等との身分関係は原告と被告乃ぶ間に争ない。訴外毛呂孝子が亡毛呂孝志郎とその妻田家定子との間に二女として出生したものであることは被告等の明に争はない事実である。そして昭和三十年八月九日に本件当事者間に原告主張の如き家事調停の成立したことは原告と被告乃ぶとの間に争がなく、被告登よとの関係に於ても弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。原告は右調停は原告の法定代理人の承諾なく成立したものであると主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はなく却つて成立につき争のない甲第一号証及び原告法定代理人尋問の結果を綜合すれば原告法定代理人に於て不承々々ながら右条項に同意した結果右調停が成立したことが認められるから右調停は形式上成立したものというべきである。然し右調停条項第二項が調停の当事者間又は利害関係人として参加していない田家定子と毛呂孝子が亡毛呂孝志郎の戦死により下附さるべき遺族扶助料の処分を原告と被告等との間に定めていることは前記甲第一号証によつて明かである。従つて右は他人の財産につき取極めをなしたものであつてそれだけではその本人につき効力を発生しない筈である。尤も右調停に於ては田家定子が原告の法定代理人として調停をなしていたものであり又同人が訴外毛呂孝子の法定代理人たる地位にあることは弁論の全趣旨によつて認められるが、これによつて田家定子及び毛呂孝子が調停の当事者たる資格を取得するいわれはない。右条項中原告に下附さるべき遺族扶助料の処分については法定代理人たる定子によつて取極められたものであるけれども右条項は他の二名(定子及び孝子)の分と結合して定めたものであつて原告の分丈を分離して有効と解し得ないから結局第二項は全部無效と解すべきものである。

次に右調停条項第三項につき検討するに同条項により被告乃ぶの管理に委せられたる不動産は亡孝志郎の死亡により原告が家督相続の結果取得した全財産であることは原告法定代理人尋問の結果により認められる。而して原告が未成年者で田家定子の親権に服する以上右財産の管理権は右定子がもつていることはいうまでもない。而して原告法定代理人尋問の結果及び被告乃ぶ尋問の結果を綜合すれば定子が昭和二十三年三月頃から訴外の林正男と内縁関係を結んでから被告等及び親族から不貞を理由に翌昭和二十四年二、三月頃事実上婚家を追い出されてから被告等において原告の相続した前記不動産を事実上管理していたので定子が原告の代理人となつてこれが引渡の訴訟を提起したが結局本件調停となつたことが認められる。なお、原告は昭和十六年四月二十七日生れで妹の孝子と共に終始定子の許で養育されて来たことは原告法定代理人定子尋問の結果により認められる。そうすると右調停は昭和二十四年三月頃から事実上親権者を排して原告の財産を管理して来た被告乃ぶに更に原告の成年に達するまで従つて本件調停成立の時から、なお、五年九月に亘つて原告の親権者たる定子の財産管理権を剥奪する結果となる。元来親権又は管理権の喪失の宣告並に辞任の許可は家事審判法第九条第一項甲類第一二号及一三号により家事審判により定められるべき事項であつて、仮令、親権者の同意があつても調停によつてこれと同一の結果を招来せしめることは許されないものと解するを相当とする(家事審判法第十七条但書)。而して本件にあつては、前記の如く、一応原告の成年に達するまでとの制限はあるけれどもそれは、なお、五年九月に及ぶものであり且つ右の如き長期間に亘つて原告の親権者たる定子の財産管理権を被告乃ぶに委託せしめねばならない程の事由は認められないからである。従つて右調停条項第三項も亦無効というべきである。

よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀磨)

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